第209章

一条瑾人は、どうやら自分がうっかり兄の機嫌を損ねたらしいと感じていた。だから二人きりでいるのが怖くてたまらず、慌てて口を開く。

「千枝、どこ行くんだ?」

「ローレンス、覚えてる?」西園寺千枝が答える。「明日Y国に帰るから、今日の午前中に時間があるうち、近くを案内して回ろうと思って。ちょっと観光ね」

「じゃあ俺も行く!」一条瑾人は勢いよく名乗り出た。「食って遊んでのことなら、俺より詳しいやついないって!」

「……」

それは、まあ……否定できない。

千枝は振り返って黒瀬冬真を見た。意見をうかがうように。

冬真は眉間を指で押さえ、立ち上がって二人のほうへ歩み寄る。掠れた低い声。

「...

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