第35章

西園寺千枝は胸の奥がひゅっと跳ね、くるんと上がった濃い睫毛がかすかに震えた。

子どもの頃の自分は、今思えば相当ひどい。毎日のように黒瀬冬真をこき使っていたのだ。

今日は「冬ちゃん、肩揉んで」、明日は「冬ちゃん、脚叩いて」、明後日は「冬ちゃん、宿題やって」――そんな調子。

思い返すだけで、さすがに気まずい。

千枝は気まずさをごまかすようにこほん、と小さく咳払いをして、知らんぷりを決め込んだ。

自分が昔しょっちゅう彼を使っていたなんて、絶対に認めない。

黒瀬冬真は、彼女が記憶喪失のふりをしたのを見て、面白がるように眉をつり上げる。気だるげに、けれど妙に甘い声で言った。

「千ちゃん、...

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