第78章

西園寺千枝は目を見開いた。呆然、という言葉がそのまま顔に貼りついている。

――いま、なんて呼んだ?

妻、って。

しかも、あまりにも堂々と。

受話器の向こうの橘薫も、その一言をはっきり聞き取っていた。二秒ほど固まり、次いで眉間に深い皺が刻まれる。

男の声が、西園寺千枝を「妻」と呼んだ。

「手が痺れた」だなんて、妙に生々しい言い方までして。

……千枝、結婚してるのか?

病気で入院して、夫が付き添っている?

胸の奥がずしりと沈み、橘薫は思わず口にした。

「千枝、そこ……誰かいるのか?」

西園寺千枝は咳払いをひとつ。できるだけ平静を装って答える。

「うん。……それで、電話どう...

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