第92章

西本七海は、西園寺奏真の「師匠」という呼びかけを耳にした途端、呆れたように鼻で笑った。

さっきまで西園寺千枝に悪意をむき出しにして、いっそ死ねと言わんばかりだったくせに。今さらよくも、のこのこ「師匠」なんて呼べるものだ。恥というものはどこへ置いてきた。

けれど、いつもなら自尊心の塊みたいな西園寺奏真は、七海の嘲りなど目に入らない様子だった。

周囲の音も、視線も、空気も――もう何もかもが遠い。

彼の世界にいるのは、西園寺千枝だけ。千枝だけだった。

赤く充血した目。震える唇。

「し……」

その声が形になる前に、西園寺千枝が氷の刃みたいな視線を投げた。

嫌悪と、無関心。

人間を見...

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