第176章

小林海が気を利かせて席を外すと、部屋には二人だけの静寂が訪れた。渕上純はどう振る舞えばいいのか、何を口にすべきかわからず、ただ戸惑うばかりだった。

視線を彷徨わせ、神原文清と目を合わせようとしない。

男が歩み寄ってくる。その鋭い視線は、彼女の顔に刻まれた痣と、僅かな腫れに釘付けになっていた。瞳の奥に滲むのは、痛いほどの愛おしさ。彼は重い口を開いた。

「……これは、全部鈴木真子がやったのか」

渕上純は伏し目がちに、小さく頷く。

「はい」

次の瞬間、男の手がゆっくりと伸び、彼女の頬に触れた。痣をなぞるような、壊れ物を扱うような優しい手つき。渕上純は抵抗することなく、ただその温もりに身...

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