第265章

神原文清が顔を寄せてこなければ、彼女はまだ物思いに耽っていただろう。

目の前に突然現れた彼の顔に、渕上純はドギマギして慌てて視線を逸らす。「な……何するんですか?」

「そっちこそ、どういうつもりだ? ずっと俺のことを見てただろ」

神原文清はソファに背を預けた。緩められたネクタイが、気だるげな色気を漂わせている。

渕上純の頬がカッと熱くなる。自分の振る舞いが恨めしい。イケメンなんて見慣れているはずなのに、どうして急に見惚れてしまったの?

「ただ怒ってたことを思い出してただけです、自意識過剰ですよ。……それより、午後は荷物をまとめに行きますから。一人で行けますし、トランク二つ分くらいで...

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