第270章

渕上純はその一部始終をじっと見つめていた。

視線の先には風見紬がいる。薄手の病衣一枚という心許ない格好で、手首には入院患者用のリストバンドが巻かれたままだ。報せを聞いてすぐに病院を飛び出してきたのだろうが、その乱れた呼吸を見るに、嵐野別荘へ直行したわけではなさそうだ。おそらく神原文清の邸宅を何軒も回った末に、ここへ辿り着いたのだろう。

でなければ、これほどまでに息を切らしているはずがない。

「以前、言ったじゃない。私がどんな過ちを犯しても許すって。一生私だけを愛して、私を妻にするって。もし私と一緒になれなくても一生独身を貫くし、他の誰とも結婚しないって……そう誓ったはずよ。なのに、嘘つ...

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