第275章

神原文清からの積極的なアプローチに対し、渕上純はほとんど迷うことなく、呆然としたまま「大丈夫です」とだけ返信した。

次の瞬間、電話の着信音が鳴り響く。渕上純の心臓は早鐘を打ったが、意を決して通話ボタンを押した。

「久しぶりに声を聞いた気がするな」

神原文清の磁力を帯びたような低音が、鼓膜を震わせる。

実は、渕上純も同じことを思っていた。数日前、風見紬の一件で新婚初夜は散々なものだったが、今の二人の間に隔たりはない。

彼の心の中で自分が最優先の存在ではないにせよ、それなりの、代わりのきかない地位があるはずだ。

そこで彼女は、少し悪戯っぽく口を開いた。

「神原社長はお忙しい方ですか...

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