第327章

中村瑞が背を向け、立ち去ろうとしたその時だ。

視界の隅に、少し離れた場所に佇む渕上純の姿が映り込んだ。彼は驚愕に目を見開き、全身を強張らせてその場に立ち尽くした。

「……奥様」

「奥様」という言葉を耳にした瞬間、神原文清の心臓が早鐘を打った。全てを悟った彼は顔を向け、七、八メートルほど離れた場所にいる渕上純と視線を交わらせる。

二人はただ、隔たりのある空間でお互いを見つめ合った。

聞かれたかもしれないという動揺は、渕上純には微塵も見られない。彼女は手に皿を持ったまま、二人の元へと歩み寄る。中村瑞が慌てて駆け寄り、その皿を受け取った。

神原文清の前に立っても、渕上純は雲のように淡々...

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