第73章

 中年の女は十分ほども騒ぎ立て、どうしても席に戻ろうとしなかった。恐怖が抜けきらないのか、全身をぶるぶる震わせながら叫ぶ。

「本当に見たの! 顔みたいなものが、じっと私を見てたのよ……舌まで出して……! お弁当の中に……! 降ろして、降ろしてよ! 今すぐ着陸して! 急いで降りないと、みんな死ぬ! 絶対、幽霊が……怪異が命を取りに来てるの! 信じて! 私、頭おかしくない!」

 だが、その訴えは真剣に受け止められるどころか、周囲の失笑を誘った。

「精神的にアレなんじゃ……?」

「まだ離陸したばっかだろ。縁起でもない」

「うるさいなぁ……周りに迷惑なんだけど」

 客室乗務員も困ったよう...

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