第76章

神崎飛鳥の手で顔盗りが立て続けに二体も折られたせいか、やつらはようやく大人しくなり、しばらくは表に出て騒ぐ度胸もなくなったらしい。

 本田優はずっと尿意を我慢していたが、もう限界だった。とはいえトイレに行く勇気が出ない。神崎様に小声で訴える。

「さっき、誰かが追われるみたいに洗面所から飛び出してきたじゃないですか。あそこにも顔盗りが潜んでるんじゃ……」

 神崎飛鳥は少し考えてから、あっさり言った。

「じゃあ、見てくる。ついでに何匹か捕まえて紐に結んどこ」

 ――一分後。

 機内の乗客全員が、呆然とその光景を見送った。

 長髪の女が手に提げているのは赤い紐。その赤い紐には、動く黒...

ログインして続きを読む