第89章

織田晋は他人の恋愛沙汰に構っている余裕などなかった。いま考えているのは、どうやってここから逃げ出すか、それだけだ。どれだけ科学を信じていようと、ここがまともじゃないことくらいはわかる。自分たちは――何か、妙なものに触れてしまった。

その認識が、じわじわと絶望を連れてくる。対処のしようがない。そもそも、こちらの人数をまとめて軽々と連れて来られる時点で、相手の手際は常識の外にある。

全員が疑心暗鬼に沈んでいた、そのとき。

「くすくすくす……」

どこからともなく、空中を滑るように笑い声が降ってきた。びくり、と皆が同時に肩を跳ねさせ、反射的に見上げる。

白いロングドレスの少女が、そこにいた...

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