第62章

彼の腕が、私を抱き締める力を強めていくのが分かった。逞しい胸板が大きく上下し、どくん、どくんと打つ心音が、鼓膜を重たく叩く。

「……怖くないのか」

彼は顔を上げ、親指の腹で私の頬を強く擦った。黒い瞳の奥で、真っ赤な炎が燃えている。

「俺が……あいつらの言う通りの人間だったら? お前を利用してるだけだったら?」

「怖いよ」

私は正直に答え、ぎゅっと寄った彼の眉間にそっと触れた。

「でも、それ以上に怖いの。私が迷ってる間に、あなたが暗がりに潜む狼みたいな連中に……骨までしゃぶられることのほうが」

その瞬間、はっきり見えた。彼の瞳に渦巻いていた凄まじい怒りも、凍てつく殺意も――熱い、...

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