第70章

松崎莉緒POV

彼は、破格の条件で用意した保障ですら、まだ軽いと思っているらしい。

その瞳の奥にある、ほとんど背水の――賭けに出るような狂気を見てしまって、胸の奥がきゅっと酸っぱく、柔らかく崩れた。

商売の世界では一手で天候すら変える男が、私の前では不器用で、まるで初めて宝物を差し出す子どもみたいだった。足りないんじゃないか、もっと渡さなきゃいけないんじゃないか。そんな怯えを隠しきれない顔。

私がもう一度、断る言葉を口にしかけた、そのとき。

書斎の外から、遠くで生まれた音が一気に迫ってきた。ハイヒールが床を叩く、切迫した連打。にわか雨が屋根を殴るみたいな、荒い足音。

「兄さん! ...

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