第89章

もう、彼が見えない。落合睦生も、あの醜悪な銃口も。

私の世界に残ったのは、手を伸ばしても指先すら見えない濃霧だけだった。

ゴムボートは海面を音もなく漂い、白い霧に呑まれた鋼鉄の巨獣から、じわじわと遠ざかっていく。

どれほどの時間が過ぎたのか分からない。

一瞬だったのかもしれないし、永遠みたいに長かったのかもしれない。

前触れもなく、稲妻よりも眩い白光が夜を引き裂いた。

続いて――空そのものを爆ぜさせるような、耳を潰す轟音。

足元の小さな筏は衝撃波に叩き上げられ、次の瞬間、海面へ容赦なく叩きつけられる。

天地がひっくり返るほど揺さぶられ、塩辛い海水を何度も飲み込んだ。それでも、...

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