第93章

どうやら私は、一度も本当に彼の世界に足を踏み入れられなかったのだ。

彼の目に映る私は結局、「守るべき存在」で、「遠ざけるべき存在」――脆い松崎莉緒のまま。

私は紙切れを掌の中で握り潰す。爪が肉に食い込むほど、ぎりぎりと。

残っていた食事を一息に胃へ流し込むと、冷え切っていた手足にようやく、かすかな熱が戻ってきた。

涙を拭い、ドアの前へ立つ。無表情のボディガード二人を見据え、これまでにないほど静かな声で言った。

「六条莉々を呼んで」

六条莉々はすぐに現れた。まるで、私の呼び出しを最初から待っていたみたいに。

私はソファに腰を下ろし、彼女を見上げる。さっきまでの崩壊も、取り乱しも、...

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