第98章

彼が目にしたのは、私と玉子のトーク画面だけ。中身はすでに消してある。けれど――私がたった今、スマホを触っていたことまでは誤魔化せない。

「尊厳、ねえ」

落合睦生が鼻で笑った。目にはあからさまな嘲り。

「松崎弁護士。いまさら俺に尊厳を語る資格が、お前にあるとでも? 俺が気づかないとでも思ったか。お前の頭の中には、まだ死んだ六条修介がいる」

一歩、また一歩。逃げ道を塞ぐように距離を詰め、私の表情の綻びを探る。

「そんなに焦ってるのは、連絡してたからじゃないのか?」

――ぷつん。

胸の奥で何かが切れた。張りつけていた仮面が、音を立てて剥がれ落ちる。

私はスマホを梳妆台へ叩きつけた。...

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