第5章

 東京、篠原株式会社の最上階。

 篠原悠二が会議室を出ると、秘書室から声を潜めた噂話が漏れ聞こえてきた。

「前の奥さん、社長とのあの家、売りに出してるらしいわよ。しかもかなりの安値で、明日にも現金化したいみたい」

「そんなにお金に困ってるの? 離婚の時、慰謝料いらないから家だけ欲しいって言ってたのに?」

 篠原悠二の足が猛然と止まった。

 彼はふと気づいた。早瀬湊の消息を、ここしばらく聞いていないことに。

 あんなに派手で存在感のあった彼女が、あまりに静かに消えている。

 彼はスマートフォンを取り出した。指先が見慣れた番号の上で三秒ためらい、ついに発信ボタンを押した。

 その...

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