彼が再び私を愛したその年に、私は自らを骨にした

彼が再び私を愛したその年に、私は自らを骨にした

渡り雨 · 完結 · 15.8k 文字

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紹介

十八歳の頃、喧嘩した私は木の洞に隠れた。篠原悠二は泣きながら私を探し、「一生お前を失わない」と誓った。

二十八歳になった年、私は不治の病だと診断された。私は彼の家をめちゃくちゃに壊し、彼の愛人を追い出し、離婚届をその顔に叩きつけた。

彼は私が癇癪を起こしているのだと、嫉妬しているのだと思った。

私が東京から姿を消し、故郷の雪見ヶ丘に逃げ帰るまで、彼はそう思っていた。

彼は病床のそばで犬のように泣きじゃくり、生きてくれと、許してくれと懇願した。

私は彼を見つめ、そっと微笑んだ。「篠原、今度はもう、私を見つけられないよ」

私が死んで半年後、彼は自ら命を絶った。

チャプター 1

 診断書を鞄に押し込んだ瞬間、私は一つの決断を下した。篠原悠二と離婚する。

 十八歳から二十八歳までの十年間。私たちは愛をすり減らし、憎しみを育ててきた。今の結婚生活に残っているのは、互いを傷つけ合う徒労だけだ。

 彼は次から次へと愛人を作り、私は彼の財産を握りしめて離婚を拒み続けた。

 彼も不愉快だっただろうが、私だって地獄だった。

 医師はまだ治療を勧めていたが、私は適当に相槌を打ちながら、どうやって篠原悠二に離婚を切り出すか、そればかりを考えていた。

 診察室を出ると、おどおどとした人影が視界に飛び込んできた。

 黒川カレンだ。一人で受付に並んでいるその姿はあまりに楚々としていて、彼女が私の家庭を壊した張本人であることを忘れそうになるほどだった。

 彼女は篠原悠二の現在の愛人であり、彼が最も長く囲っている女でもある。

 今の篠原悠二は、彼女に夢中だ。

 少し考え、私は篠原悠二への切り出し方を決めた。

「病気?」

 私は彼女に歩み寄り、病院の空調よりも冷たい声で話しかけた。

「一人で来るなんて、篠原悠二もそこまであなたを大事にしてないみたいね」

 黒川カレンは尻尾を踏まれた猫のように弾かれたように顔を上げ、瞬く間に目元を赤くした。

 何か言い返そうと口を開くが、すぐにいつものように俯いて、被害者のふりを決め込む。

「チッ」

 私は彼女のその「いじめられっ子」のような態度が何より癇に障る。まるで私が意地悪な継母みたいじゃないか。

「告げ口ひとつできないの? 私が教えてあげましょうか」

 彼女は怯えた目で私を見上げ、しどろもどろになった。

「い……早瀬さん、告げ口なんて……」

 彼女が本当に告げ口をする気があるかどうかなんてどうでもいい。私は腕を組み、冷ややかに彼女を見下ろして指導した。

「電話して、病院で私にいじめられたって言いなさいよ。もっと悲惨に泣けば、彼はすぐに飛んでくるわ」

 黒川カレンは震える手でスマートフォンを取り出し、覚え込んだ番号を押した。電話が繋がった瞬間、彼女はチラリと私を見てから口を開いた。

「篠原さん……病院で、早瀬さんに会って……」

 受話器の向こうから、篠原悠二の極めて不機嫌な冷笑が聞こえた。そのあからさまな嫌悪は、スピーカー越しでも鋭く私に突き刺さる。

 ほらね。これが、私が十年間愛した男の正体だ。

 二十分も経たないうちに、篠原悠二は冷気を纏って私の前に現れた。

「早瀬湊! いい加減にしろ!」

 彼は黒川カレンを背に庇い、ナイフのような視線で私を睨みつけた。

「カレンは熱があって来てるんだ。病院まで追いかけてきて嫌がらせか? お前の執念深さには反吐が出る」

 私はどうでもよさそうに笑ってみせた。

「不快にさせて悪かったわね。でも、あなたが私の電話に出ないのがいけないのよ。せっかく来てくれたんだから、本題を話しましょうか」

「離婚よ」

 篠原悠二の顔に張り付いていた「また何か企んでいるのか」という表情が凍りついた。彼は警戒心を露わに目を細める。

「また新しい手口か? 引くことで押すつもりか? 離婚をちらつかせて脅す気か?」

 私は呆れて白目をむいた。

「あなたの望み通り、大事なカレンちゃんに席を空けてあげるって言ってるの」

 篠原悠二は眉を寄せ、疑念を深めた。

「いつからそんなに物分かりが良くなったんだ?」

「本音を言わなきゃダメ?」

 私は溜息をついた。

「あなたのその顔を見るだけで吐き気がするって言えば、納得してくれる?」

 彼の顔色が瞬時に土気色に変わった。

「財産分与なんて面倒なことはしなくていい」

 彼が口を開く隙を与えず、私は早口でまくし立てた。

「共有財産は一円もいらない。預金も株も車も全部あげる。私が欲しいのは、結婚した時に一緒に買ったあの家だけ」

 篠原悠二はじっと私を見つめていたが、やがて軽んじられたことへの苛立ちを含んだ声で言った。

「離婚に同意するならそれでいい。だが、弁護士を入れて条件を整理する必要がある。最低でも一ヶ月はかかるぞ」

「好きにして。書類ができたら送って。その時に離婚届を出しに行きましょう」

 私は背を向け、手をひらひらと振って適当に彼らと別れた。

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六年間、身を粉にして尽くしてきた日々は、何の意味もなかったのだ。

絶望の中で目にしたのは、かつて母が手にした科学界の最高栄誉であるトロフィー。
その輝きが、私に本来の自分を思い出させた。

私はエプロンを脱ぎ捨て、白衣を纏う。
もう誰かの妻でも、母でもない。一人の科学者として、世界を驚かせるために。

数々の賞を総なめにし、頂点に立った私を見て、元夫は顔面蒼白で崩れ落ちた。
震える声で私の名前を呼び、足元に縋り付く彼。

「行かないでくれ……君がいないと、俺は……」

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