第4章

佑梨の視点

土曜日の夜、大和からまた招待状が届いた。杉本家の夕食会だ。

今度は、ためらわなかった。

シンプルな黒いドレスを身にまとい、化粧は薄めにした。これから裁きを受けるというのなら、せめて見苦しくない格好で臨むべきだろう。

屋敷のダイニングルームに到着すると、すでに満席だった。この前の時とは違う。今夜いるのは、杉本家の中心人物ばかり――十数名の、いずれも重要な人々。本物の権力が、このテーブルには座っている。

上座には俊介がいる。私が部屋に入った瞬間、彼の眉間にしわが寄った。

大和が満面の笑みで飛び上がった。「佑梨! 来てくれたんだ」彼はテーブルに向き直る。「皆さん、改めて紹介するよ。桜井佑梨。俺の元カノだ」

以前は、一度も家族の前で正式に紹介してくれなかった。私にその価値はなかったのだ。

すべての視線が私に突き刺さる。好奇の目。品定めするような目。そして、すでに見下している目。

私は大和の隣の空席に腰を下ろした。俊介の、真向かいの席だ。

夕食は十分に順調な滑り出しだった。ビジネスの話。政治。投資。いつもの会話だ。

私は黙って、皿の上に集中し、注意を引かないように努めた。

けれど、俊介の視線を感じる。顔を上げるたび、彼の目が私を見ている。心配そうな、その目を。

食事が半ばに差しかかった頃、大和がワイングラスを手に立ち上がった。

「乾杯の音頭をやらせてほしい」その笑みには牙が隠されている。「俺の元カノ、佑梨に」

テーブルが静まり返る。

「佑梨と俺がなんで別れたか、知ってるかい?」大和は一口ワインを飲むと、声を張り上げた。「彼女が俺を愛したことなんて、一度もなかったからさ」

空気が重くなる。

「彼女が愛しているのは、杉本俊介だ」彼は俊介を指さす。「俺の叔父さんをな」

完全な沈黙。

顔から血の気が引いた。膝の上のナプキンを、指の関節が白くなるまで握りしめる。

俊介の表情は変わらない。けれど、彼の手がナイフを握りしめ、血管が浮き出ているのが見えた。

「最高なのはなにかって?」大和は心底楽しんでいる。「叔父さんに言い寄り始めた時、こいつはまだ二十歳だったんだ。で、叔父さんは? 七歳の頃からこいつを育ててきた。さあ、みんな――継娘が継父を誘惑することを、なんて呼ぶんだっけ?」

「やめろ」俊介の声は低い。嵐の前の雷鳴のようだ。

「まだ終わってないぜ、叔父さん」大和はもう酔っていて、ろれつが回っていない。「ただ言い寄っただけじゃないんだろ? あんたら、実際に――」

ドンッ。

俊介の拳がテーブルに叩きつけられた。皿が跳ね、銀食器がガチャガチャと音を立てる。

誰もがびくりと体を震わせた。

「やめろと言ったはずだ」

彼は立ち上がり、大和に向かって歩み寄る。

次の瞬間、その拳が大和の顔面に叩き込まれた。

大和は派手に倒れ込み、口の端から血を流した。

部屋は騒然となった。誰かが悲鳴を上げる。「俊介!」と叫ぶ声が響く。

だが、俊介はすべてを無視した。

彼はまっすぐ私のもとへ歩いてくると、その手を取って引き上げた。

「行くぞ」

年配の女性がさっと立ち上がった。杉本家を仕切る一人だ。「俊介! 何を考えているのか!」

「大切な人を守っているだけだ」彼の声は氷のように冷たい。

「あの子が何者か、わかっているのか!」どこかの男が私を指さす。「あの事故で死んだ夫婦の娘だろう! お前が罪悪感から引き取って、今さら――」

「彼女が誰なのかは、重々承知している」俊介は男の言葉を遮った。「そして、自分が何をしているかも」

「それ、身内同士だぞ! 杉本家の名が廃れてしまう!」と年配の女性が金切り声を上げた。

「彼女は、血の繋がった娘ではない」俊介の口調は穏やかだが、絶対的な響きがあった。

「しかし、あなたが育てたのでしょう!」

「そうだ。俺が育てた」俊介は私の方を向き、その目を和らげる。「俺がしてきたことの中で、最良のことだった」

彼は私をドアの方へ引いていく。背後では、混沌が渦巻いていた。

車の中では、どちらも口を利かなかった。

息が詰まるような沈黙。

彼の横顔を盗み見る。顎は固く食いしばられ、ハンドルを握る指の関節は白くなっている。右手には血が付いていた――大和を殴った時のものだ。

「ごめんなさい……」か細い声が出た。「迷惑を、かけてしまって……」

車が路肩に寄って、キキィッと急停車した。

俊介が私の方を向く。その表情は、複雑だった。

「君は何も悪くない」

「でも、みんなは――」

「あいつらの言ったことなど忘れろ」

「あなたは?」私は彼を見つめる。「俊介は、気にするの?」

沈黙。

その沈黙が、深く胸に突き刺さった。

「気にしてるんでしょ?」声が震え始める。「世間の目を気にしてる。杉本家の評判を気にしてる。社会の裁きを気にしてる……」

「佑梨……」

「だから四年前、私の前からいなくなったのよ」涙が溢れ出す。「だから今も、私を愛してるって認めないんだわ」

「俺は――」

「いつになったら正直になるの!」私の中で何かがぷつりと切れた。「杉本俊介、私にどうしてほしいのよ!? 気にかけてるくせに、どうしてそれを言ってくれないの!?」

彼は固く目を閉じる。その顔には苦悩が刻まれていた。

「佑梨、君にはわからないんだ……」

「何がわからないっていうの?」私は彼の言葉を遮る。「あなたが私の保護者だから、一緒になれないってこと? あなたは本当の父親じゃない!」

「だが、俺は君を育てたんだ!」彼がとうとう感情を爆発させた。「七歳の君が大人になるまで見てきた! 宿題を見てやり、学校まで送り、保護者会にも出た! 俺は君の父親で、保護者であるべきだったのに、なのに俺は――」

彼の声が途切れる。

「でも、私に恋をした」私は彼の手を掴む。「私を愛してる。そうでしょ?」

彼は私を見る。その目は赤く縁どられていた。

「それが、罪なんだ」

「じゃあ、どうしてあんなに優しくしてくれたの?」涙が止まらない。「病気の時に看病しに来てくれたのはなぜ? 大和が私を辱めた時に殴ってくれたのはなぜ? みんなの前から私を連れ出してくれたのは、どうしてなの!?」

「それは……」彼の声が震える。「君が傷つくのを見るのが、耐えられないからだ」

「どうして?」

「愛しているからだ」

やっと。彼が言ってくれた。

四年間。

初めて聞く、その言葉。

車内の空気が、びりびりと張り詰める。

私たちは見つめ合う。互いに、息が荒い。

不意に、彼の手が私の首筋に伸び、ぐっと引き寄せられる。

「……許してくれ」と、彼が囁く。

そして、唇が塞がれた。

優しくも、慎重でもないキス。

四年間の渇望。四年間の抑制。そのすべてが、今、爆発していた。

彼の舌が口内に侵入し、求めるように、すべてを奪うように絡みついてくる。私は彼のシャツを強く握りしめる。彼の中に溶けていくようだった。

彼の手が私の背筋をなぞり、腰のあたりで止まると、強く抱き寄せられた。

彼の心臓の鼓動が伝わってくる。激しい。胸から飛び出してしまいそうなほど。

彼の身体が反応しているのがわかる。

彼が、私を欲しがっている。

私が彼を欲しがるのと、同じように。

だが、彼が理性を失いかけると思った、その瞬間。背後でけたたましいクラクションが鳴り響いた。彼は突然、私を突き放す。

「ダメだ……」彼はハンドルに額を押しつけ、喘ぐように言った。「こんなことは……できない……」

「どうして?」

「間違っているからだ」

「愛してるって言ったじゃない」

「愛していることと、一緒になれることは違う」彼は顔を上げる。その目は苦悶に満ちていた。「佑梨、もし俺たちがこうなったらどうなるかわかるか? 世間が君を潰すぞ。保護者を誘惑したと言い、恥知らずだの、不道徳だのと罵る。そのレッテルは、一生君について回るんだ!」

「気にしない」

「俺が気にするんだ!」彼はもう叫んでいた。「君が破滅するのを、黙って見ているわけにはいかない!」

彼は震える息を吐き、私の返事を待たずにエンジンをかけ直した。

「家まで送る」

私の住む建物の前で車を降りようとすると、彼に手首を掴まれた。

「佑梨」消え入りそうな声だった。「……すまない」

そして、彼は手を離した。

私はロビーに入る。エレベーターのドアが閉まる間際、振り返った。

彼の車は、まだそこに停まっていた。

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