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第26章 - 沈没

ディミトリ視点

「その魚を置いて、ニコ」レイヴンがニコに囁いた。

俺たちは漁船『ポセイドンズ・トライデント』号の船尾にしゃがみ込んでいた。ニコは相変わらずニコだった。彼の新しいつがいが、そのユーモアのセンスを気に入ってくれるといいんだが。この船は、ニコの友人が所有する地元の水産会社のものだ。甲板にある魚の詰まった樽のおかげで、風が強まっても俺たちの匂いは消えるだろう。ただ、ニコが俺のつがいの隣にあるイカの樽で遊び始めないことを祈るばかりだ。そんなことをしたら、彼女は奴の髪に火をつけようとするかもしれない。

「何をニヤニヤしてるの?」レイヴンが聞いてきた。

「お前だ...

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