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第二章 —— 訪問者

納屋の反対側から、空気を震わせるような強烈なアルファのオーラが伝わってきた。彼は扉のところに立ち、拳を固く握りしめ、今にも襲いかかってきそうな気配を漂わせている。ドミノが鼻を鳴らし、落ち着かなげに馬房の中で後ずさりした。普段はめったに怖がることのない馬だが、この見知らぬ訪問者は、私たち二人を畏縮させた。

「名はなんと言う!」彼は問いかけた。その声は深く、重厚だった。

私はどうすべきかわからなかった。水は凍えるように冷たく、ただ一刻も早くこの風呂から上がりたかった。だが、彼の前で立ち上がる勇気などない。私は視線を地面に落としたまま、じっと動かずにいた。周辺視野に彼の姿...

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