第6章
彼はずいぶん痩せていた。コックコートもどこかくたびれて見える。待合いの椅子に黙って腰かけたまま、視線だけが落ち着かない。
「どうしてル・ベルサージュで働きたいの?」
面接に呼び入れられた彼は、面接官席にいたのが私だと気づいた瞬間、ぴたりと固まった。
「青葉市のほうが、機会が多いから」
沈黙が一拍。そこから投げるように、淡々と答える。
私は差し出された履歴書に目を落とした。
修英調理芸術学院卒。実技も座学も、成績は進級ギリギリの及第点。名の知れた店での実務経験はなし。職歴の欄にあるのは、たった一行――「飲食店を自主経営。経営不振のため閉店」。
定型の質問をひととおり終...
ログインして続きを読む
チャプター
1. 第1章
2. 第2章
3. 第3章
4. 第4章
5. 第5章
6. 第6章
7. 第7章
縮小
拡大
