第4章
翌日、職場で仕事をしていると、腰の鈍痛と心の中のぽっかりとした空虚感が同時に押し寄せてきた。
デスクに座り、モニターの画面をただ見つめるだけで、何一つ手につかなかった。
スマホが短く震えた。
【達也:施術後、体の調子はどう? 他に違和感のあるところはない?】
心臓がドクンと大きく跳ねた。
【達也:今夜、もう一度施術する時間は空いてる?】
そのメッセージをじっと見つめながら、私は深く息を吸い込んだ。
昨日までの私は、まだ貞淑でルールを守る、ただの従順な人妻だった。でも、今日からは――
私は、自由なんだ。
午後五時半。私はオフィスのトイレの個室に鍵をかけた。
鏡に映る女は、隙のないメイクに完璧にセットされた髪、そしてパリッとしたビジネススーツに身を包んでいる。
私はその姿を、じっと見つめ続けた。
やがてスカートの裾から手を入れ、ゆっくりとストッキングを丸めるようにして脱ぎ捨てた。
空気に晒された生足は、白く滑らかな肌を露わにしている。
化粧ポーチを開け、もうずっと使っていなかった口紅を取り出した。まるで何かの宣言のような、大胆で深い赤色のリップを。
達也は上半身裸のまま、ドアを開けた。
グレーのスウェットパンツが腰骨のあたりで緩く穿かれており、引き締まった筋肉のVラインが、そのウエストゴムの下へと消えている。
彼の視線は、真っ直ぐに私の脚へと落とされた。
ほんの二秒ほどの沈黙。
「ストッキング、穿いてないんだね」唇の端をわずかに吊り上げ、彼が言った。
カッと顔が熱くなる。
「……忘れちゃったの」
「ふうん」彼は一歩脇へ退いた。
「入って」
部屋に入りながらも、彼の視線がずっと私を舐めるように追ってきているのを感じていた。
部屋の中央には、前回と全く同じように施術台が置かれている。
けれど、今日は漂う空気がまるで違っていた。
私は仰向けに寝転がった。
彼は手のひらにマッサージオイルを垂らすと、私の太ももの外側に手を添え、ゆっくりと揉みほぐし始めた。
その親指が、内腿の方へと滑り込んでくる。
心臓はすでに、喉から飛び出そうなくらいに早鐘を打っていた。
すると、ふいに彼の手が離れた。
そのまま立ち上がり、施術台の反対側へと回り込む。
「起きて」
私は腕で体を支え、上体を起こした。
彼は私の背後から施術台を跨ぐようにして座り、その両脚の間に私を閉じ込めた。
「後ろに倒れて。俺の胸に背中を預けて、膝の上に座るように。その方が背骨の調整がしやすいから」
言われるがままゆっくりと背中を倒し、彼の脚の間にすっぽりと収まった。
背中が彼の胸に密着すると、その広くて焼けつくような質量が、瞬時に私を包み込んできた。
そして、私はそれに気づいてしまった。
薄い布地越しに、硬く熱を帯びた圧が、私の尾骨のあたりに押し当てられていることに。
呼吸が、完全に乱れ始めた。
彼の両腕が私の腹部に回され、ぐっと上へと引き上げるようにして姿勢を直してくる。
「背筋を伸ばして。丸めないように」
私は背筋をピンと張った。
その動きのせいで、私の腰はさらに数センチほど深く沈み込んだ。
あの硬い熱が、より鮮明に押し当てられる。
彼の喉の奥から、低く、かすかな声が漏れるのが聞こえた。
「……いいよ」先ほどよりも少し掠れた声で、彼が囁いた。
鈍痛と疼きが交錯する。だがそれ以上に、身体の奥深くがじんわりと解きほぐされ、甘い痺れが広がっていくような感覚があった。
彼の手が圧をかけるたび、私たちの身体はわずかに上下に擦れ合った。
その硬い熱が、振動に合わせて、私の最も敏感な場所へと擦り付けられる。
何度も、何度も、何度も。
私の腰は意志に反して、自ら下へとわずかに沈み込んでしまった。
ピタリと、達也の手が止まった。
「美咲」
「んっ……」私の声はひどく上擦っていた。
「今、わざとやっただろ」
耳の先までカッと熱くなる。私は何も答えられなかった。
ほんの二秒の沈黙。
やがて、彼の手が私の太ももの上に置かれた。
ただ置かれているだけで、動かない。それなのに、手のひらの熱がスカートの薄い生地越しに火のように伝わってくる。
彼の声は低く、甘かった。
「今日はわざとストッキングを脱いで来て、わざとそのリップを塗って……そして、わざと押し付けてきた」
「どうして欲しい?」彼が耳元で囁く。
「自分で言ってごらん」
私はゆっくりと彼の手を取り、太ももの外側から内側へと導いた。
そのまま、数センチだけ上へと滑らせる。
「あなたの、好きなように……」まるで別人のように震える自分の声が聞こえた。
「して、いいわ」
すると彼は手を伸ばし、ズボンのジッパーを下ろした。
布という障壁を失った、焼けつくように熱く、剥き出しの硬い昂ぶりが、私の脚に直接押し当てられる。
「まずは施術を最後まで終わらせよう」彼が言った。
「まだ、背骨の調整が済んでないからね」
彼は再びマッサージオイルを手に取り、施術を再開した。
手技は先ほどと全く同じ――プロとしての正確で、淀みのない、一定の圧。
けれど、彼の手が圧をかけるたび、身体が沈み込んで浮き上がるその反復運動に合わせて、あの熱い硬さが私の最も敏感な場所を擦り上げてくる。
私の穿いている、薄い生地越しに。
隔たりはほんの僅かなのに、その存在感は圧倒的だった。
何度も、何度も、幾度も。
私は両腕に額を埋め、施術台の縁を指の関節が白くなるほど強く握りしめた。
腰はすでに小刻みに震え始め、身体は完全に私自身の理性を裏切っていた。
「息をして」耳元で、甘く掠れた低い声が響く。
「我慢しなくていい」
堪えきれずに吐き出した息は、とうに壊れたように震えていた。
彼の手が止まる。
施術が終わると、私は彼の膝の上から滑り降りた。全身が、まるで熱いお湯から引き上げられたばかりのように火照りきっている。
それでも、ここ数日私を悩ませていたあの鈍痛は嘘のように消え去っていた。背筋は伸び、筋肉の強張りは解け、まるで宙に浮きそうなほど身体が軽い。
ただ、それとは全く別の種類の渇望だけが、ひどく強くなっていた。
