第203章

 腕時計が視界に入った、その瞬間――高橋桜の脳内で警報が鳴り響いた。

 ほとんど反射で踵を返し、その場を離れようとする。

 けれど――一歩、遅かった。

 雨宮麻里奈の向かいに座る男が、ふいに気だるげな視線をこちらへ投げてきたのだ。

 視線が、真正面からぶつかる。

 その一瞬は、まるで脱線した列車同士が正面衝突したみたいだった。火花が散り、世界がひっくり返る。

 酒杯を握る男の、上品で冷淡で、どこか他人事みたいな表情が――ぴたりと固まった。

 向かいの雨宮麻里奈は、何が起きたのか分かっていない。連絡先を聞きたくて、頬を赤らめながらもじもじしている。

 距離が近すぎて、麻里奈は佐...

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