第167章

「見てよ。今日だって、試合が終わってすぐ迎えに行ったんだよ? しかもヒールのまま!」

 林田知音はやけに真剣な顔で言った。日野成謙の同情を、ほんの少しでも引き出したくて。

 けれど成謙は、彼女の耳たぶに唇を寄せて、くすぐるように囁く。

「わかった。じゃあ寝てて。俺が勝手に動く」

「ちょ……んっ!」

 どうしようもなくて、でも――甘い。

 成謙は知音の鼻先に、頬に、軽くキスを落としていく。

 ほどなくして、耳元にピアノ曲が流れた。知音は一瞬きょとんとしたが、すぐに気づく。今日のコンクールで自分が弾いた曲だ。

 成謙はスマホの音量を上げ、スピーカーを彼女の耳のすぐそばへ寄せる。

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