第29章

「ネットで見ちゃったの。レストランであなたがピアノを弾いてる動画」

「……」林田知音ははっとして固まった。まさか、そんな速度で広まって――母の目にまで届くなんて。

「どういうつもり? 戻って弾く気になったの?」

三上乃が単刀直入に問う。

「違うよ。ただ、レストランでご飯食べてて、ピアノがあったから……ちょっと触っただけ」

「私の勘違いね。あなたが目黒奥様でいる日々に、もううんざりしたのかと思ったわ」三上乃は深く息を吐いたようだった。「……まあ、いいわ。用ってほどでもない。ただ聞いただけ。あなた、ずいぶん電話してこなかったでしょう。結局、私には娘があなた一人しかいないの。何かあったら...

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