第33章

「野呂雨芽さん。私、正直に言うわ」

林田知音はゆっくりと口を開いた。

「あなた、自分は長くないって言っていたでしょう。でもね、私、一度だって本気で信じたことはなかったの」

「……」

「私は五年間、目黒の奥様としてやるべきことは全部やってきた。妻としての務めも、全部。でもある日、夫が私にこう言ったのよ。初恋の相手が不治の病で、最期の願いは自分にそばにいてもらうことなんだって。――そのとき思ったの。もしかしたら、これは機会なんじゃないかって」

「機会って、何の?」

そんな林田知音を見つめながら、野呂雨芽はふいに薄ら寒いものを覚えた。

「目黒雲月という男を、ちゃんと見極めるための機会...

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