第72章

目黒雲月は拳をぎゅっと握りしめた。日野成謙の素性を探らせなかったわけじゃない。だが戸籍上は川市の人間で、不動産は家が二軒、店が一軒。職業は外科医――それだけだった。

このところはグループ内部の火種を消すのに追われ、日野にまで手が回らなかった。だが目黒雲月が彼を見逃すはずがない。市役所の正面玄関で浴びせられた、あの日の屈辱を――忘れることなどできるはずもない。

「林田知音は俺の元妻だ。素行が悪くて、話し合って離婚した。俺にとっては恥そのものだよ。日野さん、他人の捨てたものを拾うのがお好きなら、くれてやる。あいつの音楽も、どうぞお好きに鑑賞してくれ。俺はとっくに聴き飽きた」

目黒雲月は立ち...

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