第86章

林田知音は特別病室を出ると、どこか上の空のまま左手の甲を指先でなぞった。まるでそこに、日野成謙の体温がまだ残っているみたいに。

――考えがまとまるまでは、近づいちゃだめ。

唇をきゅっと結ぶ。たぶん、ちゃんと考えるべきなのだ。自分の気持ちを。

病室に戻った途端、木下実初にぎゅっと抱きしめられ、そのまま頭からつま先まで検分される。

「ほんとに大丈夫? 昨日、日野成謙から『拉致された』って聞いた瞬間、私、思考停止したんだけど! あの目黒雲月、マジで人間じゃない!」

「大丈夫です、先輩。変に心配しないで」

「……あなたは? 体、しんどくない?」

「平気です。ほら、一番大事ならいちゃんも...

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