第87章

林田知音は彼を一瞥もしないまま、せかせかと車道を渡った。彼は道路の真ん中に立ち尽くし、遠ざかっていく背中を見送って、しばらく意識が宙に浮いたようになった。

歩道に辿り着いた知音は、きょろきょろと周囲を見回す。さっきまでいたはずの中年の女は、雑踏の中にもう影も形もない。

そのとき、足元がふっと抜けた。

「っ……!」

踏み外した知音の体がぐらりと傾く。追いかけてきた目黒雲月が咄嗟に腕を伸ばし、彼女の身体を支えた。

「誰を探してるんだよ。ここ大通りだぞ、頭おかしいのか?」

「あなたに関係ある?」

知音は腕を引き戻そうとするが、雲月は離さない。

「知音、何があった」

知音は力任せに...

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