第91章

日野成弘は別に頭の固い古参でもない。昔から弟を尊重し、庇ってきた。だからこそ、日野成謙と林田知音のことも、日野家の中で口にしたことは一度もなかった。

「どうしたんだ?」

日野成謙が重ねて訊く。兄貴がこんな暇人のはずがない。わざわざ電話してきて、それだけの用件なわけが――。

「いや……じゃあ、なんで林田嬢は『自分はお前の彼女じゃない』って言うんだ?」

「……」

日野成謙の頭が、ぶわっと鳴った。

「お前……どうして林田知音と話してる?」

「彼女が息子を連れて旅行してたんだが、携帯を盗まれて、切符も偽物を掴まされてな。今、うちの専用列車に乗ってる。俺が海市まで送る」

「海市?」

...

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