第171章 暗潮

夜の闇は、墨をたっぷり含ませたビロードのように重く、古川家の邸宅の隅々にまでのしかかっていた。

だが書斎の冷たい白色灯だけは、欠片ほどの温もりもくれない。紅木のデスクに積まれた書類へ容赦なく落ち、紙面の文字まで凍りついたように見せる。

古川静弘はスマホを机に伏せた。指の関節が力で青白くなる。

たった今届いた調査報告は、画面の中央で止まったまま。何度も拡大された一行。

「仮想番号のログイン履歴。端末は須藤篠華の元秘書・林田美々の携帯に紐づき。幼稚園、遊園地、雑貨店――三件の『事故』の重要時間帯を網羅」

その文字を目にするたび、胸の底がずしりと沈んでいく。

五年。須藤篠華との結婚生活...

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