第1章
火曜日の午前一時。私はレッドブルをすでに三本空け、生化学の教科書とにらめっこしていた。
机の上でスマホが震えた。
画面を見なくても、誰からかは分かっていた。神崎蓮だ。
彼は桜風大学アイスホッケー部の共同キャプテンだった。それに加えて、私と同じ西星大学に通う学生でもある。そして何より、私の彼氏である拓海の幼馴染にして大親友だった。
またくだらないネットのネタ画像でも送られてきたのだろうと思いながらスマホを手に取ると、画面に表示されたのは一枚の写真だった。
思考が停止した。それは鏡越しの自撮り写真だった。蓮は上半身裸で、スマホで顔を隠している。だが、問題はそこではない。問題はそのアングルだった。カメラは危険なほど下に向けられており、くっきりと浮き出た腹斜筋と、私のダイレクトメッセージに絶対に送られてくるべきではない「あるモノ」の先端がわずかに見切れていたのだ。
ボクサーパンツのウエストゴムはかなり下まで下げられており、布地越しに押し付けられた彼のモノの太い根元が、意図的かつ見間違いのしようがないほどはっきりと見て取れた。腹筋は深く刻み込まれており、異常なまでのトレーニングと体脂肪率ゼロの賜物だと一目でわかるものだった。
その一秒後、ボイスメッセージが届いた。
私はブロックボタンの上に親指を浮かべたまま、再生ボタンを押した。これをそのまま拓海に転送してやるつもりだった。
「マジで誓って言うけどさ、あいつ氷でできてんじゃねぇの」スピーカーから蓮の声がノイズ混じりに響いた。息が上がり、苛立っているような声だった。
「ここ数週間、ずっと匂わせてんのに。全然ダメ。ヤらせてくれないし、食いついてきもしない。今夜は本気でいくわ。忘れんなよ――もし俺がマジであいつを落としても、キレんなよ。賭けは賭けだからな」
血の気が引いた。
賭け? 今聞いた言葉の意味を処理する間もなく、チャット画面が更新された。
蓮がメッセージの送信を取り消したのだ。
そして、新しいメッセージがポップアップした。
『やべ。誤爆した。今のスルーして、佐々木。ボイスメッセージ、聞いてないよな?』
指が震えた。私は急いで返信を打った。
『何のこと? シャワー浴びてた』
『よかった。くだらない音声、間違えて送っちゃっただけだから』
彼は私を馬鹿だと思っている。私がそこまで間抜けだと本気で思っているのだ。
ボイスメッセージの保存は間に合わなかったが、写真は読み込まれた瞬間にきっちりスクリーンショットを撮ってやった。私は連絡先から拓海の名前を呼び出した。私たちは一年前から遠距離恋愛をしている。私は彼を愛していたし、信じていた。
発信ボタンを押す。三回コール音が鳴った後、彼が電話に出た。
「佐々木?」拓海の声はひどく眠たげだった。あるいは、酒が入っているのかもしれない。
「こんな遅くに、どうした?」
「さっき、裸の写真を送ってきた人がいるの」私は感情を殺した声で言った。
電話の向こうで、鋭く息を呑む音がした。気怠げで眠たそうな雰囲気は一瞬にして消え去った。
「は? ふざけんな」拓海が声を荒らげた。
「誰だよ? 俺の陰で誰かとヤってんのか? そういうことか? 罪悪感を消すために俺に報告してんのかよ?」
私は瞬きをし、自室の壁を見つめた。
『誰かとヤってんのか?』それが彼の第一声? 『大丈夫か?』でもなく、『俺の彼女に嫌がらせしてんのは誰だ?』でもなく。彼は真っ先に自己防衛に走り、私を責め立てたのだ。
「違うよ、拓海」私は強張った声で言った。
「蓮からだよ」
完全な沈黙。
五秒が過ぎ、十秒が過ぎた。
「ああ」拓海が息を吐き出した。その声は急にリラックスし、安堵すらしているようだった。
「なんだ、蓮かよ? マジでビビらせんなって。あいつ、多分酔っ払ってふざけてるだけだよ。俺のダチじゃん、あいつの性格知ってんだろ。そんなの消しとけよ」
「あなたの彼女に自分の下半身の写真を送ってきてるんだよ、拓海」
「あいつのやることは冗談だって、佐々木。気にすんな。俺はもう寝るわ」
プツッ。電話は一方的に切られた。
私は寮の部屋の静寂の中に座り込んでいた。無音が耳をつんざくようだった。何もかもがおかしい。拓海は私の知る限り、誰よりも独占欲が強い男だ。先月だって、サークルの飲み会で私の肩にぶつかった男の顎を、拓海はあわや砕きそうになったほどだ。
それなのに、蓮が私に半裸の写真を送りつけて、ボイスメッセージで私を「落とす」なんて言っているのに、拓海は気にしないというの?
『もし俺がマジであいつを落としても、キレんなよ』
何かが、決定的に狂っている。
私は教科書をバタンと閉じた。ノートパソコンを開いてデルタ航空のウェブサイトにアクセスし、桜風へ向かう始発便を予約した。搭乗開始は午前五時だ。
小さなダッフルバッグに荷物を詰める。スマホが再び光った。蓮からの新たな自撮り写真だ。今度はベッドの上で、シーツを低い位置まで下げている。
『眠れない。誰か隣にいてくれたらいいのに』
私はスマホの電源を完全に切り、バッグの中に突っ込んだ。
飛行機が着陸した時には、午前九時を回っていた。桜風大学のキャンパスは凍えるほど寒かったが、そんなことはどうでもよかった。私はダッフルバッグを引きずりながら、アイスホッケー部の上級生用寮へ一直線に向かった。
拓海のスケジュールは把握している。水曜日は朝練がない。
階段を上り、二階へ。二一四号室。
ノックしようとドアノブに手を伸ばす。しかし、ノブはすでに回っていた。ドアが数センチだけ隙間を開けていたのだ。
私は凍りついた。
中から音が聞こえてきた。濡れたような、リズミカルに肌がぶつかる音が。
そして、喘ぎ声。甲高く、息も絶え絶えな――吐き気がするほど聞き覚えのある女の声。
「ああっ、拓海……そこ、すごくいいっ……」
