第3章
葵はそれ以上何も言わず、ただキーボードを叩き始めた。
彼女の指がキーボードの上を飛ぶように動く。十分も経たないうちに、彼女はサーバーの招待を迂回し、匿名のゴーストアカウントを作り上げた。
エンターキーを叩く。画面が読み込まれた。
「入れたよ」彼女は静かにそう言って、ノートパソコンを私の方へ滑らせた。
私は膝を胸に抱え込み、分厚いウールのジャケットをきつく引き寄せた。トラックパッドに手を伸ばす。指が小刻みに震えていた。
チャンネルをクリックする。#ロッカールームの賭け。
画面を上にスクロールした。上へ、上へ、上へ。何週間分ものメッセージを遡る。その一行一行が、私の胸に直接突き立てられるナイフのようだった。
拓海_キャプテン:【ぶっちゃけ? あいつ退屈なんだよね。ヤらせてくれないし。もう二年だし、正直冷めたわ。欲しい奴がいれば譲るよ】
息が詰まった。もう一度読む。そして、もう一度。毎晩、寝る前に「愛してる」と言ってくれた彼が。
オー_ケンズ:【顔はいいからな。マジでお払い箱にするなら、俺がもらってやるよ】
拓海_キャプテン:【せいぜい頑張れよ。あいつ、俺に依存してるからな。迷子の子犬みたいに、なかなか離れないぜ】
オー_ケンズ:【賭けようぜ。一ヶ月くれ。絶対に落としてみせる】
拓海_キャプテン:【乗った。好きに遊んでいいぞ。どっちみち、もう俺には必要ないしな】
胃が激しくよじれた。吐き気をこらえるため、私は慌てて口元を両手で覆った。
ゲームだったのだ。私は、彼らのゲームの道具だった。
さらにスクロールする。彼らのやり取りの下で、チャンネルは爆発的に盛り上がっていた。文字通り、賭けの場が開かれていた。ホッケーチームのほとんどのメンバーが金を賭けている。
ほぼ全員が、蓮が負ける方に賭けていた。
そこへ、新しいユーザー名が表示された。
結衣_チア:【勘弁してよ。あの子、哀れな奨学生でしょ。お金の無駄だよ、オー。貧乏な女なんて騙すの超簡単なんだから。ちょっとお金をチラつかせれば、すぐに股を開くわよ】
涙で視界が滲んだ。
私は暗闇の中に座っていた。指先は氷のように冷たくなり、画面の青い光が、私の人生の完全な崩壊を照らし出していた。
葵はベッドで私の隣に座っていた。彼女は空虚な慰めの言葉を口にすることも、私を抱きしめようとすることもしなかった。ただ黙って、ティッシュの箱を差し出してくれた。
午前四時まで、私はチャットのログを読み続けた。すべてのジョークを。すべての賭けを。私の服装、生い立ち、そして私の忠誠心に対する、残酷で嘲笑的なコメントのすべてを。
寮の窓の外の空が、打ち身のような青白い紫色に変わり始める頃には、私は完全に空っぽになっていた。
涙は止まった。震えも止まった。
手の甲で顔を拭う。ディスコードのタブを閉じた。
ナイトテーブルに手を伸ばし、ノートを手に取る。白紙のページを開いた。
日記を書くつもりはなかった。私が書くのは、計画だ。
ブラウザで新しいタブを開き、大学の留学ポータルサイトにアクセスした。検索条件を「生化学プログラム」に絞り込む。
東京大学。
世界最高峰だ。ここから抜け出し、トップクラスの研究所に入るための確実なチケット。同時に、信じられないほど高額でもあった。東京での学費と生活費は莫大だ。
ペンを握る。私に必要な正確な金額を書き出した。
そして、もう一つタブを開く。高級ブランド品の買取サイトだ。
記念日に拓海がくれたカルティエのラブブレスを検索する。誕生日に彼が買ってくれたシャネルのフラップバッグを検索する。引き出しにしまってあるティファニーのネックレスの相場を調べる。
京都での学費の隣に、買取の見積もり額を走り書きした。
数字は完璧に一致した。十分すぎる額だ。
私はその計算式を長い間見つめていた。一時間前まで泣いていた少女は、もう死んだのだ。
パタンと鋭い音を立ててノートを閉じる。
葵が鼻梁に落ちた眼鏡を押し上げながら、私の方を見た。
「何してるの?」
私は彼女を見つめ返した。私の声は、完全に落ち着き払っていた。
「あいつらがゲームをしたいなら」私は冷酷に言い放った。
「私がルールを書き換えてやる」
クローゼットに向かって歩き出す。大きすぎるパーカーにも、着古したスウェットパンツにも手は伸ばさない。私が手に取ったのは、今まで着る勇気が出なかった、タイトで透け感のある黒のスリップドレスだった。
ドレッサーの前に座る。カバー力の高いファンデーションを塗る。血が出るほど鋭くアイラインを跳ね上げる。唇は、深みのある艶やかな真紅に染め上げた。
鏡を見る。そこに映っている少女に見覚えはなかった。
上出来だ。
スマホを開き、その日の午後に出発する桜風行きのフライトを予約した。
午後、私はまるで別人のような姿で飛行機を降りた。
今回、私が拓海の部屋のドアをノックすると、ドアを開けた彼は、あごが外れそうなほど驚いた顔をした。
彼の視線が私の体をなめるように下へと移動し、赤い唇、タイトなスリップドレス、ピンヒールを捉える。彼はごくりと生唾を飲み込んだ。
「……佐々木?」彼は呆然と息を漏らした。
「私たちの関係をやり直したくて戻ってきたの」私は猫のように甘い声で囁き、彼の部屋へと足を踏み入れた。彼の首に両腕を回し、自分の体を彼にぴったりと密着させる。
