第106章 お願いだから行かないで

矢吹薫は額に青筋を浮かべたまま、吐き捨てるように叫んだ。

「ありえない! 俺とあいつは何年も夫婦だったのに、子どもなんて一度もできなかった。妊娠してたなら、どうして俺に言わない!」

椎名伴凪は視線を落とし、瞳の奥の毒を隠す。

――本当は、婚約パーティーで矢吹薫に告げるつもりだった。

けれど林田唯月が一歩早かったせいで、今日死ぬはずだったのは自分のほうだ。

伴凪はわざと困ったふりをして、前もって用意していた袋から検査報告書を取り出した。

「前に、唯月さんが『流産止めの薬を用意したい』って言ってきた時点で、私、もう怪しいと思ってたの。あとで偶然、お姉ちゃんの健診結果を見ちゃって……ま...

ログインして続きを読む