第115章 彼女はまだ生きている

矢吹薫は、息が止まった。

耳の中に残ったのは、たったその言葉だけ。顔は泣いているのに笑っていて、声は震えて形にならない。それでも必死で押し殺した。

喉を締め、掠れた低い声で言う。

「田中……さん、お荷物が届いております」

受話器の向こうが、一瞬だけ間を置く。

「……田中じゃないです。かけ間違いですよ」

「申し訳……」

矢吹薫はそれだけ言って電話を切り、次の瞬間、堪えきれないように笑い出した。笑い声が喉を震わせ、涙まで滲む。

かと思えば、今度は自分の髪を掴んで、うう、と嗚咽しながら泣き崩れた。

泣いて笑って、また泣く。

その異様な振れ幅に、助手は言葉を失って立ち尽くす。

...

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