第26章 いつ市役所に行くのか

林田唯月がドアの前まで来た瞬間、その言葉が耳に入った。

心がずしりと沈む。足はその場で根を張ったみたいに動かず、指先ひとつ動かせない。

矢吹薫は椎名伴凪と結婚したいのなら、子どもまでいるのなら――どうして、私を放っておいてくれないの。

林田唯月は血の気がすっと引いた。ノックしかけた手が宙で止まり、下ろすべきかどうかも分からない。

ぼうっとしている間に、扉が開いた。

矢吹薫が顔を上げ、林田唯月の虚ろで自嘲めいた瞳とぶつかる。彼の表情がわずかに強張った。

「いつからいた」

「今来たところです」

林田唯月は視線を落とした。視界の端で、室内の椎名伴凪が大事そうに腹を撫でているのが見え...

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