第73章 私の死を待ち望む

助理には、矢吹社長がどうして嫌っているはずの相手をここまで甘やかすのか、その理由が分からなかった。だが所詮は部外者だ。口を挟むのも憚られる。

「矢吹社長、ではこの後は……」

矢吹薫は眉間を指で押さえたまま、くぐもった、疲れの滲む声で言った。

「指輪の修復が終わったら、譲渡契約書を書け。無償で林田唯月に渡す」

ふと気づく。真相を知っていることは、いくつもあった。けれど椎名伴凪に償いたい一心で、彼女が林田唯月を傷つけるのを黙認してきたのだ。

小さな出来事の積み重ねは、やがて抜けない棘になる。

助理はそれ以上何も言わず、車を発進させて別荘を離れた。

――だが、走り出して間もなく。

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