第82章 一つの罠

矢吹薫は、彼女の思いやりに満ちた言葉を聞きながら、心臓の奥を細い針で無数に刺されるような痛みに襲われた。

感情の制御が利かないまま、彼は唯月の肩を掴む。声には、崩れかけた色が混じっていた。

「俺はあいつとドレスを選びに行く。礼服も、指輪もだ。分かったか?」

林田唯月は終始、穏やかな笑みを崩さない。

「分かってる。手伝おうか? 用がないなら、私は先に帰るね。あなたたちの婚約の場、楽しみにしてる。ちゃんと準備して」

どの言葉も、どこを切り取っても非の打ちどころがない。

だからこそ、矢吹薫は余計に苛立った。

苛つき紛れに髪を掻きむしる。どうして唯月は、こんなふうになってしまったのか。...

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