第85章 まだ俺のことを気にしているのか

太田恵美のさっきまでの思惑は、瞬きひとつで叩き潰された。

歯を食いしばり、彼女は契約書にサインする。

林田唯月は隣のマネージャーに書類を持たせ、最後に一億二千万を渡した。

マネージャーは恭しく札束を受け取ると、にじりと後ずさりする。顔には皺が幾重にも寄っていた。

「林田嬢、どうぞごゆっくり。こちらは失礼いたします」

彼が目配せすると、スタッフたちもぞろぞろと退室した。

散らかった賭場のフロアに残ったのは、林田唯月と太田恵美だけ。

人が消えた途端、太田恵美の濁った瞳に怯えが滲んだ。

林田唯月は茶を一杯注ぎ、親切めいた口調で言う。

「今なら指、拾えばまだ使える」

太田恵美の指...

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