第91章 振り返らない

矢吹薫は、まるで冗談でも聞かされたみたいに鼻で笑い、反射的に言い返した。

「出ていく? あいつが俺から離れられるわけないだろ。今日だって嫉妬して、椎名伴凪に手ぇ出したじゃねえか」

坂東勇は、もう聞いていられなかった。見下すようなその態度も、思い上がった物言いも。

「……でもさ。本当に、ただの誤解だったらどうする? 唯月はお前の妻だろ。長いこと一緒にいて、信じられないのか。外の人間の言葉を信じるのかよ。矢吹薫、絶対に後悔するぞ!」

静まり返った地下室に残ったのは、縛られた記者の呻き声と、坂東勇の荒い息だけだった。

矢吹薫は、坂東勇の言葉に妙な引っかかりを覚える。胸の奥に、またあの嫌な...

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