第192章 以前の日々

牧野晴の唇が、かすかに震えた。

怒鳴り返したい。けれど、ここは浅見朝治の別荘だ。喉元までせり上がった感情を、彼女は無理やり飲み込む。

「……片づけるものなんて、特にありません。持ってるものは全部、朝治さんがくださったものですし……そもそも、私のものじゃないですから」

「何も持っていきません。持っていくのは――私たちの、きれいな思い出だけで十分です」

そう言いながら、牧野晴は伏し目になった。

玉井家と牧野家は、どちらも名門とはいえ、格が違う。比べものにならない。

牧野新が本気で自分を追い出す以上、いま頼れるのは浅見朝治だけだ。

もし朝治が結婚してくれるなら、これからも優雅に暮らせ...

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