第210章 彼を奪わないで

牧野晴の涙が、予告もなくぽろりと落ちた。

泣きじゃくるたびに肩が小さく震える。

浅見朝治は、そんな彼女を冷えた目で一瞥しただけだった。そして、どこか不思議なくらい淡々と告げる。

「俺がいつ、君を愛してるって言った?」

たった一言が、雷みたいに牧野晴の頭を打ち抜いた。

視界が真っ白になる。

口を開き、反論しようとする。けれど――過去の記憶を必死に探って、牧野晴は気づいてしまった。

ない。

昔も、今も。

浅見朝治は一度だって「愛してる」と口にしたことがない。

牧野晴はみっともなく手の甲で涙を拭い、ほとんど懇願するような声で言った。

「でも……前は、あんなに優しかった。愛して...

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