第28章 私、だめだよね

牧野晴が家のドアを押し開けたときも、目の縁はまだ赤かった。頬の傷は応急処置こそされていたものの、手形は薄れたとはいえ、なお赤く腫れている。

リビングのソファに座っていた牧野新は、物音に気づいて手にしていた経済誌を置き、玄関のほうへ顔を向けた。

「こんな時間まで何してた」

そこで視線が、妹の明らかに腫れた顔に止まる。目つきがすっと鋭くなった。

「その顔、どうした」

「お兄ちゃん……」

牧野晴はくしゃっと口を歪め、いかにも堪えきれないという顔でそう呼ぶと、目を潤ませたまま牧野新の胸へ飛び込んだ。あふれた涙がたちまち彼のシャツを濡らしていく。

「玉井彩歌よ。玉井彩歌に叩かれたの!」

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