第91章 先に帰ってくれ

牧野晴は完璧な笑みを浮かべ、柔らかな声で切り出した。

「以前、朝治さんから安が体調を崩したって伺って……心配で、顔を見に来たんです」

執事は「浅見朝治から聞いた」という言葉に、てっきり朝治の差し金だと思ったのだろう。すぐにうなずき、先に立って案内を始めた。

「わざわざお越しいただき、恐れ入ります。こちらへどうぞ」

牧野晴は執事の後ろを歩きながら、顎をわずかに上げる。所作は優雅で、どこか高貴だった。

執事は彼女を二階へ導き、廊下の途中で足を止める。

「安坊ちゃまのお部屋は廊下の突き当たりでございます。若様も中にいらっしゃいます」

「ここからは私ひとりで大丈夫です。ありがとうござい...

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