第104章:アッシャー

彼女は長いあいだ、何も言わない。

俺も同じだ。

照明は落とされ、空気は冷えている。廊下のどこかで看護師がカートを押して通り過ぎる音がするが、それはただの背景にすぎない。世界はこの部屋へと、そしてこのベッドへと、彼女へと――しぼんでいった。

彼女は動かずに横たわっている。身じろぎもほとんどない。けれど、意識のざわめきが伝わってくる。見なくてもわかる。彼女が俺を見ているのがわかる。握った手の緊張、呼吸のリズム、そのすべてに。まるで二人の間に張られた一本の針金が、ぴんと引き絞られているみたいに。

声がようやく落ちてくる。ひどく小さい。

「……もっと、近くに来てくれる?」

危うく聞き逃すとこ...

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