第149章:ペニー

世界がスローモーションで進んでいるみたいだ。歓声と拍手の音だけが、凍てつく空気を切り裂いて耳に刺さる。

アッシャーはそこに立ち尽くしている。肩が大きく上下し、荒い息のたびに胸が波打つ。握りしめた拳はまだ両脇で硬いままだ。雪が彼のジャケットにも、ズボンにも、髪にもまとわりついている。

そして、血。

左腕から血が滴り落ちる。細く、鮮やかな赤い筋が手首へと伝い、足元の雪を染めていく。

私は震える足で一歩前に出る。ブーツが雪をざくりと踏み砕く音がやけに大きい。心臓が耳の奥で太鼓みたいに鳴り、体中が、残った恐怖でじりじりと痺れている。

だがアッシャーが振り向き、黒い瞳がこちらの集団を捉えた瞬間...

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