チャプター 214: ペニー

彼の玄関の敷居をまたいだ瞬間、いつもの温もりを想像していた。彼のアパートのあの空気。腰に回る手。首筋に落ちてくる「やあ、プリンセス」という声。

けれど、彼は私を中へ入れない。

ただ私の手をつかんで、「行くぞ」と言う。

それだけ。

「待って――え、なに?」

もう指が私の指の間に絡みついて、やさしく階段のほうへ引いていく。

「今着いたばかりなのに」

「わかってる」

「アッシャー――どこに行くの?」

「行けばわかる」

言い返そうと口を開いた、そのとき――彼がやる。私の手を口元へ持ち上げて、指の関節をひとつずつ、ゆっくり、丁寧に、キスしていく。まるで刻印でも押すみたいに。

三つ目...

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