第161章 正木稲巳は離婚協議書に署名した

正木稲巳は狩野姫空を見つめた。表情は凪いだまま、感情の揺れが一切読み取れない。

「緊張しなくていい。司朗を奪いに来たわけじゃない」

そう言われ、姫空はわずかに息を吐いた。けれど胸の奥に刺さった棘は抜けきらず、視線にはまだ警戒が残っている。

「これは、前にお前が作った離婚協議書だ。もう署名してある」

正木稲巳が差し出したのは、あの紙だった。

姫空は一瞬目を見開き、それから受け取る。

間違いない。自分が作った、あの離婚協議書。

天芸メディアが破産を発表した直後に、稲巳はこれにサインした。

――やっぱり。資産はすでに移していたんだ。

午前中に林田守萌が口にした言葉も、脳裏をよぎる...

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